Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

Lesen Sie 大岡越前 (おおおかえちぜん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 218.436 Zeichen · 437 Bildschirme

Aozora Bunko

「越前の再生の恩人でござる。いまはいずこにおらるるやら……慕わしさに、和尚の日ごろのおことばを、自分で書いて、ながめておる」

「――慕わしさ。まことに、人間の世界は、そうした情のうるおいや張りあいのみが、助けでおざるし、いささか人間を善くもするものでございましょうな。……で、お目にかけたい物があります」

楽翁は、小さい紫のふくさ包みを取出して、あいての膝のまえに置いた。

「何か、あらたまっての御容子。なんですか、これは」

「ま。お手にとって、ごらん下さいまし」

楽翁は、手をのばして、遠くの燭を、そばへ寄せた。

越前守は、ふくさを披いた。

紫のしずかな色の上に、一箇の蒔絵印籠が乗っていた。葵紋をちらした研出し蒔絵の金色が、見る眼を射た。

「お奉行……。御記憶がありますか」

「あります」

眼を、印籠に吸われたまま、声ひくく、越前守は、答えた。

覚えがなくてどうしよう。この紋ぢらしの蒔絵印籠は、いまの将軍吉宗がまだ紀州の部屋住み時代、徳川新之助といっていたころの持ち物であった。

いやいや、それは忘れ得べくも、この印籠を、路傍に得て、飢餓の巷に、幼いお燕を、背に負いながら、木枯らしの日、みぞれ降る日を――一椀の食にも窮して、さまよいあるいたあわれなる父のすがたを、子の泣き声を、どうして忘れ得よう。