Japanische Klassiker mit Furigana
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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
Lesen Sie 大岡越前 (おおおかえちぜん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 218.436 Zeichen · 437 Bildschirme
ほんとに、お互いを思い合う者は、悪の仲間の悪同士だけで、世間の善人面には、ただ一人の同情者もあるわけはないと信じるのだった。
「お燕。……これっきりだよ」
「あ。おっ母さん。どこへ」
「叱っ。……」
お袖は、自分の袂の端を持ったわが娘の手を、袂の蔭で、そっともぎ離しながら、きつい眼をして囁いた。
「おまえは、あの藪八とかいう手先に騙されて、すッかり囮になってしまったんだね。そうだろう。あれは越前守のまわし者と私は見たよ」
「ちがいます。ちがいますよ。おっ母さん」
「いいえ。わたしには、もう読めた。お燕。これっきり、おまえとも、会わないからね」
小声でいったと思うと、お袖の影は、ふいに縁日の辻へ、ツイと走りこんでしまった。
ちょうど、暗い切通しを登りきって、そこらの灯影人影に、立ち紛れた途端なので、後から歩いていた藪八も、お燕が、あれッ――と、泣くが如く叫んだので、初めて、はっと気がついた程だった。
「やっ。お袖は? ――」
「あ、あの、人混みの、露店の蔭へ」
お燕も走った。
藪八も追いかけた。
また、藪八に従いて、見え隠れに供していた「蔭の者」二人も、一しょになって、風鈴や虫売りなどの灯の巷を、躍起となって探しまわった。