Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

Lesen Sie 大岡越前 (おおおかえちぜん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 218.436 Zeichen · 437 Bildschirme

Aozora Bunko

「えっ。市十郎さまが、そんなことを」

「だからもうお袖さんも、あんなやつのことは、思いきって、ここはきれいに、帰るがましだとおらあ思うがネ」

「ほ、ほんとかえ。久助さん。市十郎さまが、おまえに、いったということは」

かの女は、にわかに身を起した。立ちよろめくのを久助があわてて抱き支えると、お袖は、久助の手へ、子を抱かせて、ひとり、よろよろと歩みはじめた。

「あっ、お袖さんっ。……どこへゆく。どこへ?」

追いすがる味噌久へ、

「うるさいね。もう、おまえなどに、頼んでいられるものじゃない。自分で、自分の男に会いにゆくのがなぜ悪い。市十郎さまの心をはッきりときかないうちは、私は死んでも帰らないよ。――お燕を抱いて、久助さんは、ひと足先に、帰っておくれ」

「ば、ばかなことを、いいなさんな。あいては、大身の武家やしき」

「その御大身ぶりが、癪にさわる。御大身なら女子をだましてもよいものか」

それはもう久助にいっているのではない。かの女は、彼方の灯にむかって叫んでいた。この丘から地続きの広い庭園の木の間がくれに、その灯は、冷ややかにまたたいている。――市十郎の心のように冷ややかに。