Classiques japonais avec furigana
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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
Lisez 梅里先生行状記 (ばいりせんせいぎょうじょうき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 209 260 caractères · 418 écrans
六
文八は、外へ出た。
たれも彼も、よく寝たものはあるまい。山荘の雨戸はもうすべて繰開けられている。心なしか、いつもの朝のように、清々しくない。お台所のほうの笑い声もしない。
詩箋を持って、文八は、門のそとへ出たが、貼ったほうがいいか、また要らざることか、なお迷っていた。
すると誰か――かれのうしろから、おうっと、山犬のような声して呼んだものがある。ふり向いてみると、悦之進だった。ふり向かなければ、かれの声とも思えないほど、一夜のうちにおそろしく野性なしゃがれ声に変っていた。
いや、そのすがたや容貌は、もっと変っていた。髪はみだれ、袖は裂け、眦はつりあがって、手にさげている白刃のように眼はぎらぎらしていた。
六
「おう……」
「おうっ……」
ふたりは相寄って、
「どうした?」
まず文八から訊ねた。
悦之進はつかれきっているらしく、すぐには、ことばも出なかった。いや肉体の疲労もさることながら、頭も混乱していたにちがいない。
問われたことには答えもせず、面を振って鬢髪のみだれを掻きあげながら、
「……ご隠居さまには、はや、お眼ざめか。それとも、昨夜から寝もやらずにおいであそばすか」