Classiques japonais avec furigana
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ばいりせんせいぎょうじょうき
梅里先生行状記
吉川 英治
Lisez 梅里先生行状記 (ばいりせんせいぎょうじょうき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 209 260 caractères · 418 écrans
十九
と、命じた。
水滴の四、五滴を硯へ落して、介三郎はやわらかに墨を辷らせた。光圀は床几のまま料紙を把って、何事か筆を走らせていた。
それは一ツ何々というふうに箇条書にかきつづけ、料紙二枚半にも亙った。
「退げてよい」
と、介三郎へ筆を返すと、自身認めたものを折りたたんで、それも袂から肌の奥へ納めた。
介三郎は硯筥をもとの位置へおくと、そこから両手をつかえて、無言に、
(まだ何ぞ、ほかにご用はありませぬか)
という意味を、眼をもってたずねた。
(…………)
光圀も、無言のまま面をそっと横へ振る。――もとの控えに退がってよいという意らしくある。
礼をして、介三郎は静かに鏡の間の控えにすがたを消す。……だいぶ時経ってからである。装束方と後見の者が来て、末座から、
「そろそろ、おしたく申しあげて、およろしゅうございますか」
と、伺った。
光圀は、うなずいてみせる。
装束方も後見も、能に心得あるお抱えの人々である。光圀は厳かな大人形のように、身をまかせたままだった。
切能の出しものは「龍神」である。厚板の着附に、赤地に銀の青海波模様のある半切を穿かせ、なお上から紺地金襴に葵紋の龍神巻――法被ともいうものを着せかける。