Classiques japonais avec furigana
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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
Lisez 大岡越前 (おおおかえちぜん) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 218 436 caractères · 437 écrans
父恋し母も慕わし
「ここらでよかろう」
山下で降りて、藪八は、祝儀をやり、見知らぬ者に何か問われても、一切、いうなと、口止めした。
かご寅の若い者は、楽翁との関係から、その辺のことはのみこんでいる。
「お案じなさいますな。その事あ、親方からも、堅くいわれておりますから」
「御苦労。帰ってよい」
まだ不忍池の蓮見には少し早いが、夏めくと、山内から池畔へかけて、何となく、そぞろ歩きの男女が多い。
が、寛永寺坂の森近くまで来ると、ここらは、根岸へ抜ける稀な人影のほか、往来人もめッたにない。
「采女。くたびれたか」
「いいえ……べつに」
「おお。花見の頃の、茶店の空家がある。茶売りも見えぬが、そこの蔭で休もうか」
「腰掛けもございます」
采女は、チリを払って、藪八にすすめた。
「そちも、かけたがよい」
「はい……」
「ところで、きょう出向いて来た目あては、そちにも、およそ察しがついているだろうな」
「ええ……」と、采女はさしうつ向いて、
「この寛永寺の別院に匿われている、私の母を、お訪ね下さるのでございましょうが」
「その通りだ。輪王寺の宮の寺侍、大内不伝という者が、お袖を匿っていると分っていても、そこは町奉行でも、手を入れることができない。