Classiques japonais avec furigana
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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
Lisez 松のや露八 (まつのやろはち) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 125 597 caractères · 253 écrans
「入江と、拙者とは、若いころ、戸ヶ崎十松の門で一緒に修業していたことがある。むろん、拙者の方が、はるかに末輩だが」
「左様ですか」
「下手だな、あの大将、いつまでも」
「ははあ」
「あれでよく一ツ橋家の師範など勤めておる。その又弟子だから、君ら、剣術を知らんのは、無理もない」
「…………」
庄次郎は、憤ッとしたが、健吉の眼を、見ていることができなかった。
健吉は、膝の上で、団扇の柄をまわしながら、
「――お蔦あ、まだかっ」
遥かな台所の方で、
「いま、支度しているんですよ」
水の音や、瀬戸物の音が聞こえる。やがて、そのお蔦が、膳を運んできた。酒がのっている。
庄次郎は、面喰らって、
「時に」
と、あわてて、用向きを切りだした。
健吉は、盃洗へ手をのばしながら、
「あ、竹刀と、皆伝の目録か、確かに拙者が、お里の家から持ち帰っている。――まあ、一献」
「酒は……」
「飲まんのか」
「不調法者でござる」
「こいつ! 案外、話せん男だ、俺はちと買いかぶったかな。――じゃすすめない、酌をしてくれ。君はその唐茄子でも、食っておれ」
庭はひろい、手入れをしないので藪のようである。うっすらと流れだした夕闇のなかに、白い小さな綿虫の群れがうごいていた。