Classiques japonais avec furigana
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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
Lisez 松のや露八 (まつのやろはち) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 125 597 caractères · 253 écrans
唐茄子
一
「もう、すぐそこ――常楽院裏でございますよ」
「あの門か」
「ええ」
「武家だな、――何という者の屋敷か」
「榊原健吉様」
「げッ」
庄次郎は、釘を踏んだように、竦んでしまった。足の裏から、昨夜の恐怖を、思いだして、ぶるっと顫えた。
「さ、榊原……だって?」
「講武所の――ご存じでしょう、人斬り健吉ですよ」
「そ、そいつは、いかん」
彼はあわてて、帰りだした。
唐茄子
一
「あらっ? 変な人」
お蔦は、呆ッ気にとられたように、庄次郎の背へ、眼をみはった。
「土肥さん――」
追いかけて行って、その袂をつかまえると、庄次郎は、はっとしたように、お蔦の顔を振り向いた。
「なぜ、帰ってしまうんですか。せっかく、ひとが案内して来たのに、榊原健吉の家と聞いたら、急に、顔いろを変えて――人斬り健吉に、借金でもあるのですか」
「む……いや……」
無意識に、元の道へ動いてしまった自分の脚を、恥じるように、まごまごして、
「帰るわけじゃないが……その、少々……」
「どうなさいましたの」
「ちと……落し物を、した」
「まあ、何を」
「大した物じゃないが、探して来る……」
「じゃ、私も」
「いや――」と、慌てて「それには及ばん、ひとりで、探して来るから、その間に、榊原の家から、あの品を、貰って来てくれぬか」