Classiques japonais avec furigana
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あめしょうしょう
雨瀟瀟・雪解 他七篇
永井 荷風
Lisez 雨瀟瀟・雪解 他七篇 (あめしょうしょう) de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 145 414 caractères · 289 écrans
突然庭の彼方に当って風の音とも思われぬ怪しい物音がした。種彦は慄然としてわが影にさえ恐れを抱く野犬のように耳を聳てたが、すると物音はそれなり聞えず二階の夜は以前の通り柔かな円行燈の光ばかり。けれども種彦が再び草稿の上に眼を注ごうとした時今度は何者か窃に忍寄るような跫音が聞えたので、いよいよ顔の色を失うと共に行燈の火を吹消すが早いか、種彦は一刀を手にして二階の丸窓をば音せぬように押開き庭の方を見下した。半月が斜めに悲し気に丁度隣家の屋根の上に懸っている。晴れた空には早や秋の気が十分に満渡っているせいか銀河を始め諸有る星の光は落ちかかる半輪の月よりもかえって明く、石燈籠の火の消残る小庭のすみずみまで隈なく照しているように思われた。犬の吠える声もない。怪し気な人影なぞは更に見当ろうはずもない。手入を怠らぬ庭の樹木と共に飛石の上に置いた盆栽の植木は涼しい夏の夜の露をばいかにも心地よげに吸っているらしく穏かなその影をば滑らかな苔と土の上に横えていた。軒の風鈴をさえ定かには鳴らし得ぬ微風――河に近い下町の人家の屋根を越して唯緩く大きく流動している夜気のそよぎは、窓から首を差延す種彦が鬢の毛を何ともいえぬほど爽かに軽く吹きなびかせる。