Classiques japonais avec furigana
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あめしょうしょう
雨瀟瀟・雪解 他七篇
永井 荷風
Lisez 雨瀟瀟・雪解 他七篇 (あめしょうしょう) de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 145 414 caractères · 289 écrans
十
鼈甲ぎやまんびいどろなぞの破片で埋め尽されている。そして一足でも歩もうとすればこれらの打壊された宝玉の破片は身も戦慄かるるばかり悲惨な響を発し更に無数の破片となって飛散る。その度ごとに女の群はさもさも恨めし気に此方を眺めては、身も世もあられぬように声を立てて泣くのである。種彦も今は覚えず目がくらんでそのまま水中に転び落ちてしまった。彼方に流され此方へ漂いする中に、いつか気も心もつかれ果て、遂に脆くも瞼を閉じ水底深く沈んで行った。かと思うとやがて耳許に聞馴れた声がして、頻と自分を呼びながら身体を揺動かすものがある。ふッと眼を開けば何事ぞ、埒もない一場の夢はここに尽きて老いたる妻がおのれを呼覚しているのであった。
なるほど水の中に沈んだと思ったのも無理はない。秋の夕陽は欄干の上にさし込んでいて、吹き通う風の冷さに蔽うものもなく転寐した身体中は気味悪いほど冷切っているのである。種彦は二度も三度もつづけざまにする嚔と共にどうやら風邪を引込んだような心持になった。
十
家ごとに焚く盂蘭盆の送火に物淋しい風の立初めてより、道行く人の下駄の音夜廻りの拍子木犬の遠吠また夜蕎麦売の呼声にも俄に物の哀れの誘われる折から、わけても今年は御法度厳しき浮世の秋、朝な夕なの肌寒さも一入深く身に浸む七月の半過ぎ。