Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

Leggi 三国志(一) (さんごくし) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 309.839 caratteri · 622 schermate

Aozora Bunko

母がある。――自分には自分を頼みに生きているただ一人の母がある。

黄巾の乱賊はこの地方にだけいるわけではない。蝗のように天下いたるところに群をなして跳梁しているのだ。

一剣の勇では、百人の賊を斬ることもむずかしい。百人の賊を斬っても、天下は救われはしないのだ。

母を悲しませ、百人の賊の生命を自分の一命と取換えたとて何になろう。

「そうだ。……わしは今日も黄河の畔で天に誓ったではないか」

劉備は、眼をおおって、裏口からのがれた。

彼は、闇夜を駈けつづけ、ようやく村をはなれた山道までかかった。

「もうよかろう」

汗をぬぐって振りかえると、焼きはらわれた水村は、曠野の果ての焚火よりも小さい火にしか見えなかった。

空を仰いで、白虹のような星雲をかけた宇宙と見くらべると、この世の山岳の大も、黄河の長さも、支那大陸の偉なる広さも、むしろ愍れむべき小さい存在でしかない。

まして人間の小ささ――一個の自己のごときは――と劉備は、我というものの無力を嘆いたが、

「否! 否! 人間あっての宇宙だ。人間がない宇宙はただの空虚ではないか。人間は宇宙より偉大だ」と、われを忘れて、天へ向ってどなった。