Classici giapponesi con furigana
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さんごくし
三国志(一)
吉川 英治
Leggi 三国志(一) (さんごくし) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 309.839 caratteri · 622 schermate
牛と「いなご」
一
と、彼は容易に、濮陽から出なかった。
そのくせ、前線と前線との、偵察兵や小部隊は日々夜々小ぜりあいをくり返していたが、戦いらしい戦いにもならず、といってこの地方が平穏にもならなかった。
いや、世の乱脈な兇相は、ひとりこの地方ばかりではない。土のある所、人間の住む所、血腥い風に吹き捲られている。
こういう地上にまた、戦争以上、百姓を悲しませる出来事が起った。
或る日。
一片の雲さえなく晴れていた空の遠い西の方に、黒い綿を浮かべたようなものが漂って来た。やがて、疾風雲のように見る見るうちにそれが全天に拡がって来たかと思うと、
「いなごだ。いなごだ」
百姓は騒ぎ始めた。
いなごの襲来と伝わると、百姓は茫然、泣き悲しんで、鋤鍬も投げて、土蜂の巣みたいな土小屋へ逃げこみ、
「ああ。しかたがない」
絶望と諦めの呻きを、おののきながら洩らしているだけだった。
いなごの大群は、蒙古風の黄いろい砂粒よりたくさん飛んで来た。天をおおういちめんの雲かとも紛う妖虫の影に、白日もたちまち晦くなった。
地上を見れば、地上もいなごの洪水であった。たちまち稲の穂を蝕い尽してしまい、蝕う一粒の稲もなくなると、妖虫の狂風は、次々と、他の地方へ移動してゆく。