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やまうらきよまろ

山浦清麿

吉川 英治

「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页

青空文庫

首斬浅右衛門が、誰の作は斬れる、と折紙つければ、剣工として、一人前の札がつく。――慥乎、鍛てよ、と彼が激励したのは、正直で鈍重なこの一弟子に、はやく一人で飯の喰えるだけの力をつけてやりたいと常々念じていたからであった。

『ちょっと、出かけるぞ』

『あ。お出かけですか』

『ム……ちょっと』

そのくせ、清麿自身は、もうここ一月の余も、鍛冶小屋に坐らなかった。

鍛てないのだ。心がそこに向かないのである。

『喰う為という目的だけで、あれ程、仕事に夢中になれる人間は仕合わせだなあ』

外へ出てから呟いた。そして、仕事の熱を求めるように、

(誰の為に、おれは鍛とう)

と、心で思った。

飯の為、酒の為、ただ生きる為だけで――彼は刀は鍛てなかった。なぜならば、彼が刀を鍛つ仕事は、自分で生命を削るのも同じだと――それが分って居るからである。

(母が生きていたら……)

と、その度に思う。思っても効いない事と知りながら胸が傷む。

そして、空虚な心は、酒の魅惑へ、つい囚われた。

――その日も、夜まで飲み歩いて、殆ど、性もなく、木枯らしの中を落葉と一緒に飄々と吹かれながら、平河天神から麹町の灯をあてに来ると、