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やまうらきよまろ

山浦清麿

吉川 英治

「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页

青空文庫

六

然し、空は暗く、夜はまだ、明けるにだいぶ間があった。

千住の宿場遊廓から飛んで来た帰り駕の提灯らしいのが、どう道を勘ちがいしたか、刑場の原へぶらぶら迷いこんで来る様子――

『おや、馬鹿野郎め、狐にでも化かされやがったんじゃねえか』

番小屋にいた非人の二人が、のそのそ出て行ってみると、空駕はすぐ町の方へ引っ返して、後の原っぱに、酒くさい男が一人、ぼんやり立っていた。

『御浪人、ここは通り道じゃねえぜ』

教えてやると、素袷一枚の痩せた男は、知っている――と頷いて、小判を一枚、懐中から出し、

『少いが、これは手土産だ。その代りに頼みがある。明日の早朝、ここで山田浅右衛門が、胴試しにかける罪人の死骸を、朝までおれに貸してくれないか』

と、云うのである。非人は、不審顔して、

『悪戯されちゃあ困るが』

と、金も欲しそうな顔すると、

『はははは。悪戯するどこか、抱いて寝るだけのことだ』

――こいつは、酔っぱらっている。非人は顔を見合せてくすくす笑った。金は取って置かなければ損と当然に考えた。

『その筵小屋の中に入っている死骸がそうだ。外へ持ち出しちゃいけねえぞ』

指さすと、酔いどれ浪人は、這い込んで行った。