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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
それでいて、外へ出ると、だれかがあたしをじっと見ているのよ」
もしかしたら、その怪しいやつは、アパートの外ではなくて、中にいるのではないか。こうしている今も、ドアの外の廊下で、じっと聞き耳を立てているのではないだろうか。ふと、そんなことを考えると、ゾーッと背中が寒くなった。
そのとき、コツコツと、ドアにノックが聞こえた。ちょうどそのドアのことを考えていたので、ふたりともギョッとして、おびえた目を見合わせたが、ドアがひらいて顔を出したのは、アパートの主人の奥さんだった。四十五、六のあいそうのよい奥さんが、ニコニコして、何か大きな小包をさし出した。
「これ、いま来ましたのよ」
さっきの郵便配達が置いていったのにちがいない。
昌吉が受けとって、美与子に渡した。薄べったい大きな箱だ。差し出し人は速水荘吉となっている。気ちがい良斎の大鎌からふたりを助けてくれたあの人物だ。包みを解くと、きれいなチョコレートの大箱が出てきた。ふたりが世を忍んで窮屈な思いをしているのを慰める意味で贈ってくれたのであろうか。それにしては、なんとなく唐突な贈り物であった。
昌吉はふたをとって、丸いチョコレートを一つつまんで、口へ持っていこうとした。