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にっき
日記
宮本 百合子
09 一九二三年(大正十二年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,193 字 · 131 页
気候の故なのか。神経衰弱なのか。
国民美術協会主催のフランス現代美術展覧会を見に行った時、五十銭の銀貨を並べ立てて買って来た、ゴオガンの手紙をよみ始む。彼の画の美は、近頃まで、まるで感じられなかった。彼のように、色彩から来る感じが、作品の主要な暗示をつとめて居る画は、よい色刷りを見ないでは、百分の一の美も味えないのではないかと思う。クアラスリシーの呉れたラジプット・ペインティングの中に集められた画との対照が、自ら心に生じる。同じ熱帯を圏境に持つ作品でも、二者の間には大きな差があるのではないか。材料の異いもある。片方は、色彩は強いが紙の上に粉絵具?(日本画で使うようなの)で描いてあるのに、片方は、油絵具で、分厚な布地に描かれたのだから。此他、大きな差は、印度土着の画師が描いたもの、ゴーガンと云う欧州人が、タイチの島に住み、爛熟した西洋文明と相反する恐ろしいような自然力を感じ、生命の力に圧せられて描いたもの、と云う点。前者には、一方から云うと、まるで精神の湧沸がない。迫り来る人間の魂の光りがない。
印度画家の作品は、熱帯が彼等に熱帯として意識されないようになって居る処、それ程自然との同化が、面白みと同時の平凡さを与える。