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にっき

日記

宮本 百合子

09 一九二三年(大正十二年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,193 字 · 131 页

青空文庫

五月七日

けれども、斯うやって歓ぶ彼の心持は純粋だ。少くとも本を愛するものに丈、よさのわかるうれしさとでも云うべきものか。

五月七日 曇。少しむし暑い。

自分の心持には明かな、大きな変化が起った。原因は、昨晩、眠られないで居るうちに考えたことにある。

今、日本には、妻と云う位置、母と云う位置にひかされて、仕たい自分の仕事を半分にし、而も両方の愛着を口に絶やさず生活して居る女性は実に無数にあると思う。自分と云うものを生かしたい丈生かされない苦しさ。然し、現在の社会は、女性の独立をフェボラブルにはして居ない。私の子供は私なしでは幸福でない。一見平凡な生活の中でも、自分は、出来る丈のことを自己の仕事の為に捧げよう。そう云う諦め、奉仕の尊さ、女性の神のような忍耐とか云う概念に鼓舞されて、一般の調子となって居る。

私ばかりは、そう云う半端を承認した口実や諦めは一切ぬきにした生活をしよう。最も自由に、最も自己を守り、最も愛される女性は、今の日本で、どれ丈の力量を示し得るか、女でも遣り切ればどれほどの美と真が味い得るか、それを一生で示して見ようと、思いきめたのである。

芸術家になり切ることである。