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にっき
日記
宮本 百合子
09 一九二三年(大正十二年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,193 字 · 131 页
六月十日
気の強い、生活力の豊かな女の子だから、田舎の気がねの多い沈滞した生活気分に堪えないのだ。東京のよい圏境が与えられれば、進取的なよい女性の一人であろうのに、田舎から来ては女中ほか出来ない為、とげられるだけの発達をし得ない。惜しいことだ。
カントの「実践理性批判」の序にある伝をよみ、彼の哲学が如何ほど箇性と密接な関係を有するかを感じ、彼の哲学追従者が、彼と、自己との箇性的差異をどこまで考えるかと云う疑問に打れた。哲学と云ってもつまり或独特な箇の上から、過去の認識を素材とし、独特のその人の火を導として立つべき焔なのだ。実に、抽象的な学であって、而して同時に箇性的な創造であると思う。一見如何に普遍的な論理の排列のようでも、徒に、体系の異動で、如何ともしがたい各人の価値の世界があるのだ。
野上さんが、(臼川氏)哲学はプラトーで、文学はギリシア悲劇で、他は皆それのインタープレテーションだと云われた。それもその言葉だけをきけば真だ。けれども知識、芸術を愛するものは、そのインタープレテーションの種々相にあらわれる箇性の栄光を認め、愛し、美に打れずには居られない。