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にっき

日記

宮本 百合子

09 一九二三年(大正十二年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,193 字 · 131 页

青空文庫

九月十日

自分でもぐうとも云わず三里を歩いた。

A、さいの弟の立のきさきをたずねに又浅草に行く。次手に寺田氏の焼跡も見る。

弟は赤羽に居る由、

寺田氏は埼玉県下に避難

九月十日(月曜)小雨

基ちゃん来、国男が午無事で帰って来た由をきく。悦ばしさに堪えず。親切に教えてくれたことを感謝し、小雨を冒し、紺がすり元禄袖の着物にはきすての下駄で出かける。電車塩町から市役所まであり、三橋まで徒歩で動坂まであると云う。早い交通機関の恢復をおどろく。日比谷辺まるで何処だかわからず。事務所によって見ると、彼方此方の建築敷地にひなん民が入りこみ、溝に用便するため臭気堪え難し。地下室にやけ出された所員ローソクで何かして居た。電車は六時までなのでとうてい間に会わず。三橋へ出ず、須田町、お茶の水、順天堂わきを通って本郷に入る。本石町辺では焼け切れた電線がたれ下り、うっかりすると引かかる。ペーブメントは凹凸だらけ穴だらけ、電車の軌道も石がはね上って居るので危険。

陰気なビショビショ雨の中で、段々四辺がくらくなり、本石町辺を通って居るときは、何とも云えず凄く、寥しかった。お茶の水は、本校正面の柱列が少しのこって居るばかり。