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にっき

日記

宮本 百合子

09 一九二三年(大正十二年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,193 字 · 131 页

青空文庫

六月八日

この間、犬が自動車に轢かれた時往来を歩いて居た犬が二匹、カヮンカヮン鳴き乍ら倒れた犬をかむようにした。どう云うものか、

武藤泰子さんから来信、妙に抱き込んだような調子で、段々私が好きになって来た、手古摺るほど行くかもしれない、などと云って来る。あわれ。友情の大切な謙抑などと云うことを彼女は考えず、空虚な胸を、ぐっともたせかけて来ようとするのか。そう云うところが彼女の所謂「失敗」の原因であろう。少し自惚がつよすぎるか。一人も打ちあける者もなければこれも無理はない。

六月八日(金曜)晴〔予記〕野上さんのところへ十時頃迄に行くこと。

パリで自動車衝突の為死去された北白川宮成久王の御葬儀の為、A学校は休み。却って朝おそくなり急いで電車を間違えたりしたので、野上さんのところへ行ったのは十一時すぎて居た。上野行で須田町で乗かえるのが一番速いらしい。いろいろ仕事の話、あとでは野上臼川氏も出て来られての雑談。夫妻とも実に学者的であるのに興深く感じた。彌生子さんは「澄子」の続きを少し持てあましで、一枚書くのに一日つぶし、胸がわるくなるほど疲れると云う。彼女のひどい近眼が一層頭にわるいのだろうと思い、不安を覚えた。