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にっき

日記

宮本 百合子

09 一九二三年(大正十二年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,193 字 · 131 页

青空文庫

「まあ!」

と云い、私は或感に打れた。それ程、深いつながりがあるものか。これほど、しおらしいものか。人間の心と云うものは。幾百里はなれ、苦しみの揚句、見すてはしても、一度良人と呼んだ者と営んだ生活の記憶は不死であるらしい。

◎

人間は、理論をつくして考え、方法を講じ、手段をもくろんでも、到底それがその順序に従って、所謂合理的に実行され難いのを知った時、而もそのことの実行が、自己に生命的重要さを持つ時、意外な、最も無智な者のするような道をとる。他に已を得ないのだ。例えば、逃亡と云うようなこと。

◎

考えが不図此事に及び、自分は駭然とした。如何程の必然がそのように、一見非常識に見えることの裡にあるか。

◎

K氏が、O氏を刺す前、右のような考えが必ず頭に浮んだに違いない。彼女の場合、逃げるにも逃げられない程、自分からの執着が強かったのだろう。

◎

すべて、ことの解決と云うものは、相方からの折れ合いか、一方の絶対の承認がなければなり立たない。先方が、或提議に承認を与え得ない本当の心持――理屈には非ず――もすっかりわかり、而も自分の要求、飢渇を忘れることが出来ないとき、自分を立てて眼前相手の倒れるのを見るか、直接傷つけない