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にっき

日記

宮本 百合子

09 一九二三年(大正十二年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,193 字 · 131 页

青空文庫

宿では、食事を見繕って仕て呉れることは出来ないと云う。なれないからと云って。一々私が指図をして呉れるようにとたのまれる。仕方があるまい。

部屋を片づけながら、段々暗くなる戸外の雪を見、頻りに、倉知へ行って、夕飯を食べようと云う気を起す。少々寂しくなったのなり。

けれども、今夜行ったら、又明朝が無駄になると思い、明かに我が心を励して、片づけを仕舞う。夕飯の膳に向い、福神漬の鑵を切って居ると、何とも云えない心持になって、眼頭があつくなった。

家に落付けない者は不幸だ。落付けない家を持つ者は不幸だ。然し、不幸とは、何を云うのだろう。反対に、幸福と云うのはああ云うものだ……と心に一つの写真が浮び上った。

京都の何とか云う人の細君で、美しく、小肥りに肥え、片手を柱にかけ乍ら佇んで居る姿だ。周囲に、幸福が鮮やかな影をつけて居た。幸福を負うて歩いて居る姿、と云うのを、自分は今理解出来る。

夕飯後十二月以来、二ヵ月ぶりで、自分はゆっくり机に向った。そして、立つ四五日前、国男さんの買って来て呉れた此原稿紙に、日記を書き始めた。

今年の日記は、今日から始る。

去年の暮、Aの買って呉れた博文館の日記には、扉に、彼の不幸にして快くない筆跡で「せめて此だけでも」