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にっき
日記
宮本 百合子
09 一九二三年(大正十二年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,193 字 · 131 页
宝庫が貧しくなる憂はない。
ああ、生れ出た甲斐には
今一度、少年の日の歓喜を恵み給え。
今一度 かの日の熱望と光明とを
わが心窩の壇上にとぼし給え
傲り驕った望みと云わば云え
今こそ繩縛の身であっても
わたくしは
一燈の聖火を
芸術の祭壇に捧げずには
わが命を終るまい所存なのだ
憂鬱に心を閉されるのを感じ、私は一日椅子によって種々な書籍を漁った。日頃愛好する詩集や、昆虫の生活を書いたもの、古風な物語集の類まで。
中に一つ忘れられない話があった。ことの由は斯うである。
昔、あるところに一人の偸盗が入った。主が怪しい気勢で目を醒し、出て行く処を討止めて呉れようと、物陰に隠れて待ち伏せた。
障子の破れ目から覗いて居ると、盗人は、あちらこちらから物を少許ずつ取っては、持って来た袋に入れて居る。慾にかけ、あらいざらいを掻き攫う風にも見えない。やがて、ほんの僅かの物を取りためると、出て行こうとしたが、棚の上に、鉢に灰を入れて置いたのを見ると、その盗人は何と思ったのか、掴み食った後、今迄、袋にとり入れた物を、皆元の場所に置いて立出た。待ち伏せて居た主は、兎も角からめ捕りはしたが、如何にも盗人の振舞いが解せない。