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にっき

日記

宮本 百合子

09 一九二三年(大正十二年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,193 字 · 131 页

青空文庫

其処へ、Aが現れた。自分は、感情的に、人間の不完全さ、相互的な至らなさを強調して承認した傾向があった。

此時、経験出来る丈のことをして置かなければ、自分は一生、母の大望の偶像になって居るのみで、終らなければならないだろう。自分が世間並に結婚するなどと云うことは如何うせ母を悦ばせはしない。許しを乞えば許されないに定って居よう。そんな憐れな心持から、自分は、極度に自分をすててしまったのであった。

母の好意、愛、よき意味の大望を、自分は、祭りあげられ過る苦しさから、皆日陰の意味にとってしまった。

此処に明かに私の精神の弱さがある。そんなことに拘泥しないで、ちゃんと魂の真個の有場所を見つめて居る丈の力がなかった。だから、上り下りした。下った時、自分は、人間として、自分が持って生れた何ものかで永い時間には辛棒して居られなくなる低み迄、飛び下りてしまったのであった。

○

鎌倉へ行こうとする時、自分は、丁度、豊島さんの「野晒し」をよんで居た。主人公の恐ろしい心持が自分の苦しさを照り返すようで、手先がつめたくなり体が震えた。

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