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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

09 一九四二年(昭和十七年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,952 字 · 130 页

青空文庫

十月五日

マッサージの人が来ましたから。

十月五日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 藤島武二筆「ベラデスタの池」(一)と「ベルサイユ」(二)の絵はがき)〕

(一)あーちゃんが二階上下することは、もう九ヵ月の体によくないので私が上に移りました。殆んど十一ヵ月振りでみる二階は、荒廃のあと著し、という工合です。ペンさんに手伝ってもらって、居る方の部屋だけどうやらまとめて臨時の机でこの葉書を書きます。家のように満足な体の人が居ないところは、めいめいが自分の体にかまけて、つまり一番普遍的に気のつく人間が病人になっていられないような可笑しい按ばいです。それと戦ってせいぜい安静を心掛けて居りますから。この絵に色が見えたらどんなにいいでしょう。光と音楽とが感じられますね。ドーデーの小説の中にこういう甘美というような描写がありました。小さい作品だそうだけれども、どこへ出しても大丈夫という格のものだそうです。今日寿江子さんが行って小夜着の話、わかりましたかしら? 夜は綿の入ったものがなつかしいわね。

(二)この秋はこの老大家の絵が中々見物であったそうです。眼がみえなくなって手もきかなくなったこの画家が新進大家のお弟子達にかこまれて自分の仕事の並べられた室を歩いたそうです。