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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

09 一九四二年(昭和十七年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,952 字 · 130 页

青空文庫

九月十四日

でもね、この頃は大層成績が上って、上目を使っても目が廻らないし横目も出来るしすごいものです。ひと頃のように枕の上から自然にみえる範囲の伏目勝ちでどっちへも目玉が廻せないという様な有様から比べれば、たしかに人間並になりました。

『ピョートル大帝』の下巻は、もらわなかったから古本で探しましょう。眼の本はどうも有難う。誰が読んでくれるかしら? この字を書く人が二日置きずつにちゃんと来てくれることになったから、私は本当に気が楽になりました。眼のこともいずれ読んでもらいます。家の連中は私がもう死なないことがはっきりしたら、大分タガをゆるめているのよ。おかしいこと。

九月十四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 封書)〕

十四日

今日の様な風を昔の人は野分の風と呼んだのは実感からですね。木の葉の音やその中にまじる昼の虫の音を聞いていると、野分としか思えない風情です。昔の人はそこで短冊を出しかけたのだけれど、家では中耳炎になった泰子の泣声がひびいて、看病にヘバリ果てた身重のあーちゃんが次の間で横になっている次第です。人手が極端にないから、こういう突発のことは総動員になってしまいます。