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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
09 一九四二年(昭和十七年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,952 字 · 130 页
八月三十一日
昔の人は、そう云う場合の感情さえ、こう云う一見淡彩な表現の内に、語ったのですね。あなたのお手紙の内に、歌の出た始めてですから、特別な感じです。今日は、もっと歌の話、その他を、どっさりするつもりで、意気込んで机に肘をつき、耳たぼを引っ張って居りましたが、紙は、何とじき一杯になることでしょう。それに、もうスエコがお風呂に入らなければ、何人かが困ると云う場合に立ち至って、残りは、別便になってしまいました。では一と先ず、これで。
八月三十一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 封書)〕
八月三十日。
昨日丸っこい小さい小包が着きました。開けてみたらばお話の手拭とタオルで、お見舞有難く戴きました。手拭は見なれた物ですが、タオルはいかにもあちらで出来たらしい気持の良い藍色と、それより細い朱の縞が縁に付いていて珍しい可愛らしいものです。一枚位そちらでも使ってごらんになりましたか? 体をふくのに上々ですが、私とすれば何だかそれも惜しくて、机の処にかけて一寸使えそうな気がします。
メリメは全部を読んだことがないので、むしろ駄作を知らないわけですが、トルストイの全集なんかでも遺稿の内には、未完成の小説で、一つのテーマを、ああ書き、こう書きしてみて、結局物にならず終っているようなものがあります。