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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

09 一九四二年(昭和十七年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,952 字 · 130 页

青空文庫

来診願ったところというわけでした。

去年の十月末ひきつけた話は申しあげましたね。成長の一段階毎にこういうことが起るらしくて、咲枝はショックでお腹があやしいし、父さんは明方からの骨折りでクタクタだし、私が気をもんで動き廻るという有様でした。こういうことがあってもこの節は買出しに行かなければ何一つお菜がない。然し人手がないから行けない。御飯の心配があります。ともかく十七日なのだから、私としては少くとも何かしたくて、晩の御飯でも言いつけようとするが、うなぎ屋にうなぎがないのよ。支那料理も鯉どころか、食用蛙の天ぷらが、とりに行けば幾人前かは出来るという有様です。

泰子は体中をけいれんさせて、歯の間にお箸をたてて(舌をかまない様に)いるのに、蛙をとりに書生さんは出せないから、では菊そばへ、というわけで、やっとあやし気な天丼にありつきました。一円の天丼がいかの足を細切れにしたもの一つ位がのって居ます。

雨はざんざ降りで、皆こわい顔をして心配して動いているから、太郎はビービーで私は大変かんしゃくをおこします。そして太郎に、しっかりしろ! と言います。夕方泰子の薬を取りに船橋まで雨の中を行く書生さんについて太郎が出かけ、その時は小さいながら少年ぽくて愉快でした。