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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

大宝庫

蛍火程の光でもいい。何か目に見えるものがなくては、我慢が出来ぬ。同じ死ぬなら、光の下で死にたい。こんな暗闇の中で死んだなら、極楽への道も分らず、まよまよと迷い歩いて、地獄に堕ちる外はないだろう。アア、恐ろしい。

わしはじっとしていられなかった。といって、いくら走り廻ったところで、闇は尽きぬのだ。よみじの外へは出られぬのだ。

大宝庫

光、光、光、と、ただそのことばかり思いつめていると、ふっと、天の啓示の様に、わしの頭に閃いたものがある。

わしは、少年時代の不思議な記憶を思い浮べたのだ。

十七歳の時であった。わしは父の棺を送って、この穴蔵へ来たことがある。その時坊さんが、穴蔵の中で経を読んだ筈だ。何の光で読んだのだろう。そうだ、そうだ。あの時は奇妙な外国渡りらしい燭台が、棺の前に立っていた。あれはお寺のものでない。わしの家のものだ。その癖わしは、あんな奇妙な燭台を家の蔵の中で一度も見たことがない。とすると、若しやあれは、いつもこの墓穴の中に置いてあるのではなかろうか。きっとそうだ。きっとそうだ。

あの燭台があれば、ひょっとしたら、蝋燭の燃え残りがないとは云えぬ。