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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

「これは、おマンさん、なんぞ、用かね?」

「ちょっと、ここまで」

金五郎は、普段着のマンが立っている、錨の傍に行った。

もう黄昏れて、煙って来た海上からの風が、冷たい。船も、対岸の門司も、灯をちりばめて、汽笛が、ときどき、海峡の空気をふるわせる。

「金五郎さん」

「うん」

「困りますよ」

「なにが?」

「あなた、方々に、あたしと夫婦になる、というて、いいふらしていなさるらしいけど、自分勝手にきめたとて、あたしは知らないわ」

「そうかね? 困るかね?」

「あたりまえじゃないですか。大迷惑やわ」

「そうかなあ……? わたしは、なにも、いいふらして歩いたわけじゃない。人から――玉井さんも、もう、おかみさんを貰うて、身をかためたら、どうか。……とか、ええ嫁女を世話しようか、とか、いわれるもんじゃけ、そのたびに――いや、結構、わたしは女房貰うなら、谷口マンさんのような女が欲しい、と、いうたまでじゃ。他人の口に移ると、なんでも曲ってしまう。あんたと夫婦になる、って、いいふらすなんて、そんなこと、するわけがない。でも、わたしが、そう思うとることをいうのが、あんたに、そんなに、迷惑かね?」