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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

追放

追放

巌流島の見える桟橋横で、マンは煙草をのみながら、魚釣りを見物していた。

昼休みである。

魚を釣っているのは、彦島の諸式商「なんでも屋」の親爺、まだ、五十には遠いのに、すっかり頭髪が絶えてしまい、橙色に光っている。釣り気ちがいで、店は女房まかせ、そのために、いつも、夫婦喧嘩の絶え間がない。喧嘩といっても、常に、細君の方の一方的勝利に終るので、「なんでも屋」は、嚊天下として、鳴りひびいている。

マンは、ひやかす。

「あたしの林助兄さん夫婦と、おたくは正反対ね。兄さんの方は、亭主が威張っとって、オンピン・メンテレやけど、「なんでも屋」さんは、オンテレ・メンピンやわ。しっかりしなさいよ」

「そげんこというたって、世間には、オンテレ・メンピンが、多かとばい。まあまあ、女房には負けとくが、よかとたい」

「そんなだらしのないことで、どうするとですか。見とって、はがいいわ」

「フフフ……」

「なんでも屋」は、マンの顔を、じろじろと見て、妙な笑いかたをし、

「そりばって、マンさんが嫁女になったら、はげしいメンピンになるとじゃろうもん……?」

「あたし、亭主が理不尽なことせんかぎり、おとなしい、ええおかみさんになるつもりよ」