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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

死生

新仲町へ曲り、しばらく黙って歩いた。玉井家の灯が見えてから、

「おマン、広島のお父さんが、大怪我をしたちゅうで」

おどろいて、

「どんな?」

「簡単な手紙で、はっきりとはわからんがな、なんでも、薪割りをしよって、欠片が顔に飛んだらしい。それが眼に入って、盲目になるかも知れん、と書いてあった。それにびっくりして、お母さんも寝こんでしもうとるげな」

「あたし、一度、広島へ帰って来ようか知らん?」

俄かに、はげしい郷愁が、矢も楯もたまらぬもののように、マンの全身を焼いた。

死生

旗亭「緑屋」の二階から、夜の海が見える。そのあたりは、洞海湾の入口だ。港口にある中ノ島には鬱蒼たる森林と、聳え立つ骸炭工場の高い煙突とが、月光に照らしだされている。対岸の戸畑は、霞んで見えない。

この中ノ島は、河※島という別名があって、昔は、筑前藩、黒田二十五騎の一人である三宅若狭守家義の守っていた若松城があったが、今は城址は石ころだけとなり、そこへ、コークス工場が出来たのであった。工場には、「河※の異人さん」と呼ばれた、エエ・メイ・コイという、月給を日本貨幣で二百五十円も取った、フランス人技師がいたけれども、今はもういない。