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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

人情の谷

の子分になったちゅうことじゃけ、問題は一層うるさい。角助は、おれのやり口を知っとるけ、おれの裏をかくかも知れん。それで、こっちも、今度は、もう一つ、その裏をかかにゃならん。……マン」

きっと、金五郎の強い眸が、ふたたび、マンを刺した。

マンは、なお、無言で、夫の口もとに注意した。

「お前、これからすぐ、部屋中を起して廻れ。午前二時、新川岸壁集合、大伝馬船を、燈台沖まで漕ぎだして置いて、パナマ丸の入港を待つ。助ボーシンの源公とも、よく打ちあわせてある。小方に全部知らせたら、永田親方の家に行って、朝飯を六十人前、すぐ炊いて、パナマ丸に届けろ。そのころは、もう、船は港に入っとる筈。……おい、間男、猫の手一つでも借りたいところじゃ。というて、うちの猫は七匹居っても、さっぱり、役に立たん。お前も、手伝え」

人情の谷

永田家の台所には、三升釜が二つ、据えられてある。どこの小頭の家でもそうであるが、夜業、朝業、遠出などの荷役のときには、五十人前――百人前という弁当をつくることが稀でないので、炊きだしの整備はととのっていた。

マンの指図で、炊かれた熱い飯が、どんどん、握られる。