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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
宿命
と、お葉は、邪慳に、十郎の手をふり払った。「恐しいことはおやめよ。あたしとお前さんとは、兄弟かも知れないんだよ。般若の五郎さんは、おッ母さんの亭主じゃあないけれど、亭主みたようなときもあったんだ。あたしがお前さんのお父ッあんの胤でないとは、誰も保証できないじゃないか。獣になるのは、いやさ」
「お客さん、若松行の馬車が参りましたよ」
表で、ラッパの音と、馬のいななく音とが聞えた。
宿命
街中を、自転車の群が縦横無尽に飛びまわる。そのどれにも、白鉢巻、白襷の青年が乗り、後尾には、候補者の名を書いた旗を立てている。ハンドルには、号外の振鈴のようなものを、幾つも束にしてくくりつけているので、チリン、チリン、ジャラン、ジャラン、と、やかましい。
「もう、矢崎新兵衛さんは、当選に定まったわい」
街の人たちは、頻繁に、景気よく走る候補者の伝令や、その顔色を見て、状況判断をする。
「矢崎さんだけじゃない。民政党は、枕をならべて、当選のごとあるのう」
「やっぱり、吉田天皇のお膝元、民政党の金城湯池じゃ。争われんもんたい」
「政友会は、最長老の大貝潜太郎さんが、危かばい」
「そういやあ、中立団も、総帥の井上さんや、玉井さんの票の出が、馬鹿に悪いじゃないか。