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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
第一部
男と女
しかし、金五郎は、この金は、父が山を売って、苦心の果てに、こしらえたものだ、ということを知っていた。
金五郎は、いったん入れた金を取りだした。三十円だけにした。そして、「一金参拾円也、拝借仕候」という証文を書いて、そこへ残した。こうして置かないと、また、嫂が、「金坊が、三百円も盗んで行ったぞな」というのに、きまっている。
また、金五郎は、いつか、この金は、かならずかえすつもりであった。
着換えなどを、風呂敷に包んだりして行くと目立つので、六枚も、重ねて着た。ちょっとそこへ行って来る、というような恰好で、家を出た。汗がどんどん流れだし、道後の湯に浸っているような気持であった。
それきり、彼の姿は、この村では見かけられなかった。
明治三十六年、初夏。
玉井金五郎、二十四歳。
第一部
男と女
門司港。
風師山のいただきを、強い風のわたっているのが、海鳴りのように聞える。二百十日が近づいた、その前ぶれかも知れない。遠くで、風の合間を縫って、汽笛が鳴る。
桟橋下の貯炭場を、すぐ前に望む、浜尾組の事務所に、あかあかと、灯がともっている。奥座敷に、大勢の人かげがうごき、なお、ぞくぞくと、集まって来る。