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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

虚実

「原田君、外のことなら、あんたのいうことも聞くけんど、こればかりは、いくら、あんたでも駄目じゃ。絶対、勝則は、藤本さんと縁組みさせる。二度と、いいなさんな」

取りつく島が、なかった。

マンは、金五郎の留守中、大庭春吉と藤本家に行ったことを報告したが、やはり、眉をひそめて、息子と芸者とのことを語った。

「まあ、おれに委せちょけ」

金五郎は、不機嫌に、そういって、多く語るを好まないようだった。

(碌なことは、一つもない)

磊落な金五郎も、今度の上京以来、あまりのさんざんさに、さすがに、気を腐らせていた。

財布の盗難と、般若の五郎の奇怪な行動。気がかりなお京の消息。約束の時間をすっぽかして、吉田磯吉を激怒させた。炭積機問題で、三菱本社を四度も訪れたのに、てんで相手にされなかった。そして、帰ってみれば、友田喜造から、風呂の中で聞かされたとおりの、息子の裏切り行為。

或る夜、金五郎は、勝則を誘って、漁に出かけた。これはいつものことで、父が投網を打つ小伝馬船の櫓を、息子が漕ぐのである。

弁財天浜から、船を出した。ここは、嘗て、金五郎が斬られた場所であるが、海岸通りも広くなり、桟橋の様子もすっかり昔と変っている。