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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

仇花

巌流島の横を通って、門司の岸壁に、伝馬船をつけた。

櫓をこいで、ふたたび、彦島へ帰って行く「ノロ甚」に、金五郎は、

「今度、逢うときは、将棋がお前より強うなって、コテコテに、やっつけてやるぞ」

と、闊達にいった。

戸畑まで行くつもりで、門司駅に行った。困った。汽車賃一人十七銭なのに、三十銭しかない。四銭、足りない。そのころ、米一升、十二銭であった。

「歩きましょう」

と、マンがいった。

「うん、仕方がない」

蒲団、柳行李、信玄袋、鍋、釜、米とぎ桶、茶瓶、などを、それぞれ、分担して、身体につけ、乞食のような恰好で、海岸添いの道を歩いた。四里ほどの道のりである。

前途は、暗澹としていた。

明治三十六年、十一月。

玉井金五郎、二十四歳。

谷口マン、二十歳。

仇花

二年ばかりが、過ぎる。

日露戦争は、日本の勝利に終った。

対馬の近い北九州では、日本海々戦の砲声が、遠雷のように、聞えた。全滅したバルチック艦隊の敗残兵が、ボートに乗って、近くの海岸に流れつく事件があって、百姓や漁師たちが、鍬、鎌、櫓などをふりまわす珍騒動がおこった。

連日、威勢よく、号外のリンが、町々、村々を、かけまわる。