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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
序章
女の出発
序章
女の出発
「たいそう暗いが、キヌさん、もう何時ごろかのう?」
「まあだ、三時にはなりゃあすまいね」
「やれやれ、この谷は一日がよその半分しかないよ。仕事も半分しか、でけやせん」
「その代り、夜がよその倍あるわ」
「倍あったって、電燈はつきゃせんし、油は高いし、寝るしか用がない。この村の者がどんどん都に出て行くわけがわかるよ。遠いところに行く者は、ハワイやブラジルまでも行っとる。成功しとる者もたくさんある。その成功した者は、もう二度とこんな草深い田舎には、かえって来やせん。かえらんのがほんとよな」
「マンさん、あんたもどうやら、出心がついたようにあるねえ。兄さんの林助さんは、関門の方に行ってなさるということだが、元気にして居りんさるかね」
「はい、門司で、沖の仕事をして、儲けだしとるとかで、わたしに、出て来んか、って、なんべんも手紙をくれなさる」
「だけど、たいがいなら、港なんどというところには出んがええよ。人気が荒うて、若い娘はモミクチャにされるというけえ。……マンさん、もう、煙草葉のばすこと、やめんさい。帰ろうや」
「お父っあんが、楽しみに待ってなさるけえ」