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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

他の乗客の迷惑などは、おかまいなし、どこかの料亭の大広間で、宴会でもしているつもりらしい。二十人近い同勢のほとんどが、相当に酔いを発していて、特に、永田杢次の酔態が目立ちはしなかった。げらげらと、間断なく笑う。

金五郎が、眼をそばだてたのは、親分たちの半数以上に、一人ずつ、女のくっついていることである。いずれも、馴染らしく、メカケか、芸者か、娼妓か、女給か――細君らしい者は一人もいない。

「なんじゃい、永田の大黒は、独り者かい? そんな野暮人でもなさそうな顔しちょるが、ほれ、こいつででも、間に合わせちょけ」

そんなことをいって、カフェの女給らしい女を、金五郎へ、どんと押しつける親分もあった。

列車は、ゴウと音を立てて、長い鉄橋をわたった。金五郎は、雨に煙るひろびろとした川面を眺めながら、呟いた。

(遠賀川、……川筋……)

石炭が、この遠賀川を、川舟によって積み出されたことに起因して、いつか、川筋気質というものが発生した。それは、吉田磯吉をはじめとする仁侠の風となって、北九州の地を掩うている。親分といわれる者はもとより、石炭仲仕でさえ、普通の労働者とは異って、博徒、やくざ、遊侠の気風を帯びていた。