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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
泥棒は、終始、そわそわと、落ちつかず、あたりをきょろきょろ見まわす。足袋跣足で、足ぶみをしきりにして、片時も、じっとしていない。騒いでいるのは、泥棒の方だ。
マンも、一時はおどろいたが、泥棒の様子を見て、まもなく、落ちついた。
ほろ酔いで帰った金五郎が、いつか、これと同じ恰好で、マンをおどかしたことがある。しかし、眼前の泥棒は、夫とは似ても似つかぬ貧弱な体格で、声にも、凄味がない。嗄がれたふるえ声である。もう五十歳を越えた年配かと、推定された。
「お金が要るんですか?」
「あ、あたりまえじゃ。……か、か、……金が要るけん、ど、泥棒に、入ったんじゃ」
「今、あたしとこ、金ありませんわ。夫が、旅行に、財布をさらえて持って行ってしもうたし、……この二三日、仕事もあぶれとるもんで……」
「う、嘘をこくな。は、は、早く、銭を出せ」
「どうしても、要るんですか?」
「どうしても、い、要る」
「困ったわねえ」マンは、ちょっと小首をひねったが、「そんなら、十分ほど、待っとって下さい。借って来てあげますけ」
「まちがうなよ」
「煙草でものんで、一服していらっしゃい」
マンは、立ちあがると、そういい残して、裏口から、出た。