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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
それは、右舷だけではなく、左舷も同様だった。左舷を指揮していたのは、「六ゾロの源」である。
「どうやら、うまく行ったなあ」
金五郎と、源十とは、さすがに、ほっとした面持で、微笑を取りかわした。
段取りが終り、パナマ丸が、洞海湾の入口に横たわっている、中ノ島の横を通るころには、東の空は白み、港内も、ぼうと、暁のうす光に、浮きあがりつつあった。
「玉井君、君は、相かわらず、元気だなあ」
船橋のうえで、そういうのは、船長である。門司以来の顔見知りで、荷役のたび、何度も逢ったことがあった。
「外に、能がありませんからな。親ゆずりの健康だけが、取り柄ですよ」
「いや、謙遜せんでもいい。僕も、今度ばかりはおどろいたよ。型破りだ。こんな無鉄砲、君でなけりゃ、出来んよ。これは、健康だけの業じゃない」
「わたしがしたんではなくて、港の悪漢がさせたんですよ」
「大きに、そうだ。どうも、港をかきまわす毒虫がいて、困るなあ。こっちが、端迷惑だ。船を喧嘩場と思ってるんだから。……今日も、喧嘩になりぁすまいねえ?」
「わたしの方は、喧嘩なんかしないつもりですが……」
三番浮標が、薄明の中に、近づいて来た。