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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
金五郎は、鉛の熱塊を、咽喉に突っこまれたような感じがしたが、表面は、さあらぬ態で、
「これ、親方の字と違うようですなあ」
と、うそぶいた。
「それじゃけ、永田本人を出せ、ちゅうたんじゃ。現場に、顔をまるきり出さん者に、親方の資格があるか」
「角助さん、親方は、ここに、いますよ」
その女の声で、ふりかえると、いつ来たか、小伝馬船の中に、マンと、永田杢次とが、立っていた。「中学生」の谷俊次も乗って居り、朝食弁当の籠と、五升樽二つが積んである。
「そうか」と、角助は憎々しげに、「そら、あつらえ向きじゃ。……永田さん、その証書を見てくれ。自分で書いたもんを、まさか、見ちがいはすまい」
いくらか酔いも醒めている永田杢次は、永田組の文字の上に、小頭と入った印半纏を着ていた。久しぶりに珍しい仕事装束である。
永田杢次は、角助が、友田の名入り半纏を着て、敵方の船に乗っていることが、腑に落ちないらしい。しょぼついた眼を何度もこすって、
「角よい、お前、いつ、友田の若い衆になったとかい?」
「いつも、かつも、あるもんか。あんたのようなグウタラ親方のところに居ったんじゃあ、先の見込みがないけ、こっちから、ケツ割ってやったんじゃ。