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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
そういって、霰のように、紙片を、海に、散らした。うすく脆い和紙は、水に落ちた雪のように、溶けて行く。
「畜生、ウウウ……」
角助は、呻いた。痙攣ったように、ふるえだした。醜悪な顔が化物のようになり、むきだされた乱杭歯が、ガチガチ、鳴る。
金五郎を、憎悪の眸で、睨みつけていたが、急に、身体をひるがえし、提灯をかきわけて、自分の伝馬船の最後尾に、撤退した。金五郎の膂力をよく知っているので、正面から立ち向かっても、勝ち味のないことは、角助自身が、百も承知している。
角助は、艫に突っ立つと、俄かに、虚勢を張り、胸を反りくりかえして、
「永田組の野郎どもを、たたんでしまえ」
と、絶叫した。
「友田」の提灯を持った仲仕たちが、どよめいて、永田組の伝馬船へ、殺到する気配を示した。
「手出しをするな」
舳に立っていた金五郎は、ふりかえって、落ちついた語調で、組内の者に、声をかけた。
これが、人気のない野ッ原かなにかであったならば、大喧嘩になったかも知れない。しかし、あまりに、観衆が多すぎた。洞海湾という、巨大で、花やかな、いわば、野天舞台の中央でのページェントだ。しかも、突発的事故ではなく、前々から、不穏の空気は察知されていたのである。