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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

熟達したみごとな腕前である。

なにもない白い金五郎の腕のうえに、龍の眼玉、鼻、角、髭、と、順々に、浮きあがる。金五郎は、チクチクと、痛いけれども、我慢した。

お京が笑って、

「痛そうね?」

「なんの、擽ゆうて、気持がええわい」

「腕なんて、一番、痛くないところよ。尻や、腰のときは、気の弱い者は、涙をこぼすわ」

針が、龍の上肢に来たとき、金五郎は、

「ちょっと待って」

と、お京の手を止めた。

「どうしたの?」

「その肢には、なにをつかむ?」

「宝珠の玉よ。きまってるじゃないの?」

「菊の花を、描いて貰いたいんじゃ」

「菊? 変ねえ」

不審げに、そういったけれども、お京は、いわれるまま、大束の菊を、龍の肢につかませた。

夜になると、心得顔の仲居が、粋をきかせて、蒲団を一つ、枕を二つならべて、出て行った。

おどろいた金五郎は、廊下まで、仲居を追っかけて出た。

「もしもし、姐さん」

「なんですかいな」

「床は、二つ敷いてくれんと、困るよ」

「阿呆らしか。野暮なことば、いいんしゃんな。そげんかことしたら、お京さんに叱られます」

「いかん、いかん。絶対、二つ」

「知らん、知らん」

「おい、待て、待て」