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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

そんな押し問答をしていると、騒ぎを聞きつけて、お京が出て来た。腹をかかえて、笑いだした。

「笑いごとじゃないよ」

不機嫌なその金五郎の言葉には答えず、お京は、なお笑いながら、仲居に、蒲団は二つにするように、命じた。

夜も、彫青作業はつづけられた。

時期を指示されて、金五郎は、風呂に入る。特に彫青のために、一日中、湯が湧かしてあった。熱い湯にひたると、針を立てられる以上の苦痛をおぼえた。腕がしびれ、もげそうに、疼く。しかし、入浴しなければ、ほんとうの色が出て来ないのだった。

寝る段になると、金五郎は、一苦労だ。お京が風呂に行った隙に段取りをした。仲居が敷いて行った二組の蒲団を、六畳の端と端へ寄せ、間を出来るだけ離す。それでも、不安なので、中間に、部屋にあった金泥の二枚屏風を立てた。

湯から上って来たお京が、笑いだして、

「金五郎さん、それ、なんの呪禁?」

「魔よけじゃ」

「魔がいるの?」

「居るよ」

「どんな魔?」

「気色の悪い魔じゃ」

「変なひとねえ」

笑っていたお京の切れ長の眼が、複雑な思いをこめた秋波になる。

お京が、金五郎に対して抱いている関心は、単に、彫青だけではなくなっていることは、疑いなかった。