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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
聯合組事務所は、海岸通りにある。そこには、弁財天宮があって、通常「弁財天浜」と呼ばれている。道幅が一間あまりしかなく、風と波のはげしいときは、湾内の海水がしぶきになって、店の中まで入って来る。今日は波が静かで、林立した帆船の檣も、じっとしていた。
金五郎は、事務所の裏口から廻り、小使に、日本刀をあずけた。
「仕事の帰りに貰うて行くけ、どこかに、蔵っといてな」
「玉井さんは、刀剣の鑑定が、大層、上手じゃげなのう。これも、銘刀かね?」
「うん、天下の銘刀じゃ」
笑って、そういい、また、弁財天浜に、出た。岩壁の附近を見まわした。
「おうい、親方、こっちじゃあ……」
サンパン小屋の附近から、大川時次郎が、手をあげて、呶鳴っている。
「玉井組」の看板をかけて以来、困ったのは、金五郎の呼びかたであった。小方には、昔の同僚や先輩がいるし、郷里の友人もいる。これまでの「親方」というのは、照れくさいし、「親分」も、仕事師らしくない。「玉井さん」「金五郎さん」「金さん」などは、なお、ぴんと来ない。そこで、申しあわせの結果、マンの発案を入れて、「オヤジ」と呼ぶことに取りきめたのであった。