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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
前夜の出来事については、永田家では、なんにも知らぬ様子である。(相かわらず、のんきな親方だ)と、思った。もともと、荒くれた立引と、生き馬の眼を引き抜く鋭敏さと、ときには、血で血を洗う争闘さえ、辞せられない請負師をしていたことが、永田杢次には無理なのであった。ラムネ屋という、普通の商売に変ってみると、実に、平和な姿で、板についている。
「玉井、碁を打たんか」
と、にこにこ顔でいう。
「碁は知りません。将棋なら、すこし、さします」
「将棋は、おれが知らん。碁の方が面白いぞ。知らんなら、教えてやろうか」
「教えて下さい」
「おい、ヨネ、碁盤を持って来い」
「いえ、今夜は、ちょっと、外に用事がありますけ、また、この次に……」
「そうか。そんなら、そうしよ。……玉井、お前も、一人前の仕事師になって、これから、玉井組が大きゅうなって行くんなら、碁は、ぜひ、知っとくがええぞ、趣味を持たん人間は、動物と同じじゃ。バクチを知っとるだけじゃ、つまらん。お前は、若いに似あわん面白い男じゃけ、そのうち、町会議員くらいには出られるかも知れん。いんや、かならず、町会議員にはなれる。そんなときには、えらい人とも交際わねばならんことが出来て来るけ、碁は知っとけ、きっと、役に立つ。