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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

「緑屋」で、お京から責め立てられ、「それでも男か」と詰られて、右腕に降り龍を彫ることだけは、約束したのである。無論、彫青だけの接触だが、もうこうなったら、そのもう一つ奥の交際にまで、発展しないともかぎらない。くしゃくしゃしている金五郎の心に、悪魔が忍びこんで来た。

朝の光線が、障子窓いっぱいにさしている。今日もよい天気らしい。雀のさえずりが、台所にいる子分連中の騒ぎといっしょになって、にぎやかな交響楽を奏でる。

頭のしんが鈍くうずいて、重い。味噌汁椀を置いた金五郎は、枕元にあるラムネを飲もうと思って身体をねじ曲げた。その眼に、水色の一通の封書の落ちているのが映った。手をのばして、拾いあげた。

表に、「玉井マン殿へ」、裏には「飛鳥、森キミより」――キミというのは、君香の本名である。すでに、封が切られてある。

金五郎は、不審の面持で、中の手紙を引きだしてみた。目読した。読み終って、

「なあんじゃ。そうか」

と、吐きだすように、呟いた。マンの行動の原因がわかったのである。

そうすると、今度は、こういう手紙をマンに書いた君香、そして、君香と同調しているにちがいない森新之助への憤りが、俄かに、金五郎の全身を燃え立たせた。