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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「それなら、放っちょいてくれ」
「妹からの手紙によると、親父やお袋はもう大したこともないようにある。薪が飛んで、親父は片眼はまるきり見えんようになったらしいけんど、片方が大丈夫じゃけ――眼は一つありゃええ、なんて、元気でいうとるらしい。そんなら、もう、おマンも帰って来りゃええのに、あれから三ヶ月にもなるとに戻ろうとせんし、……」
「時やんが、つれて帰るよ」
「それが、オヤジ、変じゃよ。時やんは、村に帰っちゃ居らんらしいで」
「そんな筈があるもんか」
「それでも、マンの手紙に、そう書いてある。それで、わしが帰んで来ようかと考えたわけじゃが……」
「要らんお世話」
投げつけるように叫んだ金五郎は、くるりと身体を廻すと、急に、はげしく抜き手を切って、沖に向かって泳ぎはじめた。
ぐんぐんと、沖合を目ざし、島を遠ざかって行くと、響灘の水平線のうえに、ぎらぎらと照りかえす純白の入道雲が、絢爛たる行列をつくって、雲部隊の進軍のようである。せせこましい地上の出来事など、この太陽と、海原と、青空との壮大な交響楽の前には、塵芥にも等しい。
(この海をこのまま泳ぎつづけて行けば、支那に行ける。