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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

そんな脱出の欲望が、身うごき一つ出来ぬ癖に、発作的におこるのみであった。

……ものものしい白衣の手術着や、マスク、メス、鉄、血と石炭酸のにおい。それから、ばらばらに解体した玩具を修繕でもするように、つなぎあわせてぐるぐる巻きにした白い繃帯。ベッドのうえに、そんな哀れな姿で横たわっている青ざめた金五郎は、誰の眼にも、死んでいるものとしか見えないのに、本人はどこかへ行きたくて仕方がないのである。

病室の中には、陰気くさい空気がたれこめている。重苦しい。窓には明かるい外気があたっているけれども、カーテンがそれを遮断している。

医者が、入って来た。うしろに、銀色の箱を持った看護婦がしたがっている。

医学博士の鹿爪らしい八字髭と、金縁眼鏡とを眺めて、金五郎はいった。

「散歩させてくれませんか」

「とんでもない」医師はびっくりして、「一尺動いたら、死んでしまうよ」

「そんなら、そこの窓から、外を見せて下さい」

「カーテンを引きなさい」

命ぜられた看護婦が、静かにカーテンをめくった。

上部につけられた環の金属音が、鈴を鳴らすように、金五郎の耳に、こころよくひびいた。